大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(ツ)71号 判決

建物の賃貸借が一時使用のための賃貸借であるか否かを判定するについて、その斟酌すべき事項についてはなんら特別の制限はないのであつて、ただ首肯するに足りる相当の資料を挙示することを要するとするのが従来の判例の示すところである。本件についてこれをみるに、論旨第一点で引用されている原判決認定の上告人が本件建物について最初に賃借権を取得するに至つた事情、その後本件和解による賃貸借をなすに至つたまでの事情を綜合考察すると、原判示の如く本件和解による賃貸借を一時使用のための賃貸借であると判断するのが正当であつて、右判断が従来の判例に反するものとは解されない。したがつて右賃貸借に更新に関する同法第二条を適用しえないことは多言を要しないので、原判決には所論のような法令違背ないし理由齟齬の違法はないから、本論旨も採るをえない。

註 上告趣意書第一点

原判決には民事訴訟法第三九五条第一項第六号理由不備の違法がある。

一、原判決はその理由において

「本件和解による賃貸借契約は控訴会社が主張するような一時使用を目的とするものであるかどうかを判断する。

先ず被控訴人が本件建物について最初に取得した賃借権の性質について考えるに、控訴会社は繊維製品及び雑貨の卸小売を業とする株式会社で東京都中央区銀座二丁目二番地の四越後屋ビル一階を賃借して営業を行つているが、昭和二十二年末頃右越後屋ビルに隣接する本件建物がその所有者早川某により売却されることとなつたので、控訴会社はその将来の店舗とする目的でこれを買受けた。しかし当時繊維製品の統制が厳しく控訴会社としても特に店舗を新設して営業を拡張する必要もなかつたので本件建物を玉転し屋に約一ヶ月賃貸したほかは空家として将来の繊維製品の統制緩和又は撤廃後の店舗開設に備えていた。被控訴人は当時移転先に窮し、控訴会社に対して本件建物又はその横の空地を移転先の見つかるまで一時的でよいから貸してほしいと申入れた。控訴会社は前述の事情があるため長期の賃貸借契約を締結する意思は全然もつていなかつたが、被控訴人が急場をしのぐため単に一時的に使用するだけならば差支えないと考え、被控訴人に対し、右の事情を告げ、繊維製品の統制が緩和又は撤廃され控訴会社自身いつ本件建物を使用する必要を生ずるやも知れないから長期の賃貸はできないが一時的でよいならば貸してもよい旨を答えたところ、被控訴人はその移転先に困窮していた関係上これを快諾したので、控訴会社は昭和二十三年十一月十日に、期間を契約の日より昭和二十四年五月末日まで約六ケ月、賃料一ケ月金四万円、被控訴人は露店に使用している屋台をそのまま移転する程度の焼鳥屋又はおでん屋を営み永続的な商売は決してしないと定めて本件建物を被控訴人に賃貸した。従つて被控訴人の右賃借権は右のような被控訴訴人の当座の窮状を救済するため繊維製品の統制が緩和又は撤廃されるまでの間の一時使用を目的として設定されたものと認定するのが相当である。

次に本件和解をなすに至るまでの事情についてみるに、繊維製品の統制も段々緩和される傾向にあり、約定の期限である昭和二十四年五月に至り控訴会社より被控訴人に対し本件建物の明渡を要求したところ、被控訴人は差し当つての移転先もないから、もう少し明渡を猶予してほしいと懇願したので、控訴会社としては前述の事情に加えて、被控訴人は本件建物を賃借するや間もなく当初の約定に反して本件建物において寿司屋を開業するに至つた事情もあるので賃貸する意思は毛頭なかつたが、やむを得ず右懇願を容れ一ケ月間だけその明渡を猶予し契約書(乙第一号証の二)を徴した。右契約書は賃貸借の形式をとつているが、実は単に猶予期間を定める趣旨で作成されたもので、新たな賃貸借契約を締結するために作成されたものではない。しかるに右一ケ月の猶予期間経過後も被控訴人は控訴会社の明渡要求に応ぜず重ねてその猶予を求めたので、控訴会社はまたやむなく一ケ月間だけ明渡を猶予し被控訴人より念書(乙第一号証の三)を徴したが、その後同じように毎月念書を徴して一ケ月宛明渡の猶予を続け約一年間そのような状態が続いた。繊維製品の統制も昭和二十四年暮頃解除されるに至つたがこのような状態ではいつまでも本件建物の明渡を得られないので、控訴会社は昭和二十五年四月頃に至り被控訴人に対し、本件建物の明渡猶予を従来のように一ケ月毎に延ばすのではなく、今後六ケ月間(同年十一月末日まで)の猶予を認め右期間内に必ず明渡を実行すべきこと並びにその趣旨を裁判上の和解にすべきことを提案したところ、被控訴人はこれを諒承して、その頃右裁判上の和解調書作成に必要な和解条項を添付した被控訴人の委任状を控訴会社に交付した。そこで控訴会社は右期限には被控訴人において必ず明渡してくれるものと信じまた委任状さえあればいつでも和解調書を作成することができると考えて和解調書を作成しないでいたところ、同年十月頃被控訴人はまたまた明渡の猶予を求め、本件家屋に自己の費用による二階の増築を認めてくれるならば、そこにおいて相当の利益をあげ必ずや短期間内に無条件で明渡すから増築を認めてほしいと申入れてきた。控訴会社としては事茲に至つてはさきに受領した委任状を用いて和解調書を作成するわけにもいかずまた今更明渡訴訟を起して早期の解決を図ることは難しいのでやむなく裁判上の和解によつてならば一年間の明渡猶予を与え、増築を認めようと答えたが被控訴人は最低三年の期間を主張して譲らず、ここで双方において種々接衝を重ねた結果、結局同年十一月十日に至り、(1)二階増築は被控訴人の費用で行う(2)賃借期間は今後三年とする(4)賃料は一ケ月金三万五千円とする(5)期間経過又は契約解除の場合は無条件で本件建物を明渡す等の和解による賃貸借契約の内容が協定され、翌昭和二十六年三月二十八日東京簡易裁判所において右協定どおりの本件和解調書を作成するに至つた。してみれば本件和解による賃貸借契約は以上の事情からして被控訴人が資金の回収を図り相当の利潤を得て本件建物を明渡し他に移転するに要する費用を生みだすまでの期間を三年とみて、右三年間に限り賃貸する趣旨であり、明らかに一時使用を目的とするものである」と事実を認定した。

二、そして原判決は「以上認定の事実からして、本件和解による賃貸借契約に更新に関する借家法第二条を適用し得ないことは勿論である」として第一審判決を取消し、上告人の請求を棄却した。

しかし以上の認定事実からして、何故に借家法第二条が適用され得ないか。原判決はその法律的理由を一切明にしない。原判決には理由不備の違法があるものと謂われなければならない。

(柳川 坂本 中村匡)

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